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小さなカメラで紡ぐ、風景と歴史

一日中持ち歩ける特権。あえて今、FUJIFILM X-S10を選ぶ理由

x-s10
カメラを持ち歩くのをやめた時期がある。

若いころはフィルム一眼を2台、常に持ち歩いていた。重さも気にならなかったし、シャッターを切ることがなにより楽しかった。でも気がつくと、いつしか鞄に入れるのが億劫になっていた。そしてデジカメの時代がやってきて、さらにスマホカメラの画質が向上してくると、「もうスマホで十分」と自分に言い聞かせていた。

それは「カメラが好き」という気持ちが薄れたのではなく、ただ重さに負けていたということだ。

でも、撮り続けるうちに気づいてしまった。きれいには撮れている。でも、薄い。光の奥行きがない。空気感がない。自分が「見た」世界と、画面の中の世界が、どこかずれている。

その違和感が積み重なったとき、もう一度ちゃんとしたカメラを持ちたいと思った。

このブログを始めるにあたって、まず私がどういう使い方をしているかを話したい。スペック論より、使い方の話の方が伝わるものがあると思うから。

普段のX-S10のお供は、Wズームレンズキットの2本に加えて、SAMYANG 12mm F2.0TTArtisan 25mm F2というマニュアルレンズだ。AFレンズは守備範囲が広い。旅先で何が来るかわからないとき、動きのある場面、とっさに寄りたいとき——そういう場面ではズームに素直に頼る。

左:TTArtisan 25mm F2 右:SAMYANG 12mm F2
でも、マニュアルレンズでしか撮れないものがある、とも思っている。どちらも手ブレ補正を持たない。ピントも自分で合わせる。なぜわざわざそんな不便なレンズを選ぶのか——答えは単純で、写りが好きだから。

開放時の柔らかさ、ボケのつながり方、光の滲み方。フィルムで撮っていた頃の感覚に近い何かが、これらのレンズにはある。それ以上の理由は、正直うまく言語化できない。でも指がシャッターに触れたとき、「これだ」と思う感覚は確かにある。


X-S10を手に入れたのは、数年前のことだ。

決め手はIBIS——ボディ内手ブレ補正だった。

当時、軽さに惹かれて別のカメラを借りたことがある。同じレンズをつけて、薄暗い路地で撮ってみた。帰ってPCで確認すると、半分以上の写真がブレていた。シャッタースピードを上げれば暗くなる。ISO感度を上げればノイズが乗る。どこかで妥協するしかない。それは撮影というより、損切りだった。

X-S10の5軸・最大6.0段のボディ内手ブレ補正は、その問題をほぼ解決してくれた。手ブレ補正のないレンズでも、その場の自然光で、手持ちで、撮れる。

江の島夜景
日が落ちかけた石畳の路地。手すりに触れた指先が少し冷たくて、空はもう青から群青に変わり始めている。そんな場面でも、このカメラはシャッターを切ることへの躊躇を消してくれる。「撮れるかな」ではなく、「撮ろう」と思える。その差は、思っていたより大きかった。


重さの話もしておきたい。約465g、バッテリーとカードを含んでこの数字だ。

重いカメラは、気合いを入れたときにしか持ち出せなくなる。「撮りに行こう」という日は良い。問題は、そうじゃない日だ。コンビニへの帰り道、急に光が綺麗だと気づいた瞬間、旅先でふらっと入った横丁——こういうとき、カメラが鞄の中にある人と、家に置いてきた人では、撮れる写真がまったく違う。

有馬の夜
去年の冬、有馬に行った。夜食事に出るだけだったので、カメラを持っていくつもりはなかった。でも出がけに「まあ持っていくか」と肩にかけて宿を出た。結果、夕暮れの路地で何気なく撮った写真がお気に入りの1枚になった。X-S10が軽くなければ、持って行かなかった。持って行かなければ、あの写真はなかった。


EVFの話も外せない。

軽量ミラーレスの中には、電子ビューファインダーを省いたモデルも多い。コストと重量の削減のためだ。でも私はEVFがないと、正直しんどい。日差しの強い屋外で背面液晶を見ようとしても、ほとんど確認できない。それ以上に、ファインダーを覗く行為そのものが好きだ——フィルムカメラを使っていた頃の習慣が、体に残っている。

真夏の昼間、白いコンクリートに光が照り返すような場所で撮影したことがある。背面液晶は完全に白飛びして見えなかった。でもファインダーを覗けば、ちゃんとフレームが確認できた。EVFがあるのとないのとでは、撮れる場所が変わる。

X-S10には0.39型・約236万ドットのEVFが搭載されている。このサイズのボディにEVFとIBISを両立させているカメラは、実は多くない。軽量・IBIS・EVF——この3つを同時に満たす条件で探すと、選択肢は驚くほど絞られる。


フィルムシミュレーションの話もしておく。

X-S10には18種類のシミュレーションが搭載されている。クラシックネガ、エテルナ、ブリーチバイパス——カメラ内で仕上がりの方向性を決められる。

旅先や出張先で撮った写真を、すぐに妻や旅好きな友人にひと言添えて送る。編集ソフトは使わない。体験の熱が冷めないうちに、誰かと共有できる。これがFUJIFILMを使い続けている、もう一つの理由だ。

先日、友人と夕暮れ時に海沿いを歩いた。クラシックネガで撮った写真を帰りの電車の中で見返したとき、「これ、もう完成してる」と思った。あの色、あの粒感。自分が見た景色に、ちゃんとなっていた。


正直に言う、弱点も一つある。

AFだ。

飛行機など早い動きは苦手である
日常のスナップや風景では問題ない。でも動き回る被写体を追うとき——走る子供、大空を行く飛行機——「惜しい」という場面が出てくる。最新機種のAIによる被写体検出とは、世代の差がある。これは否定しない。

甥っ子と公園に行ったとき、走り回る彼を撮ろうとして、何枚かピントを外した。そのうちの一枚は、ブレた手足と、笑った顔だけが辛うじて止まっている写真になった。失敗作のはずなのに、なぜかそれがお気に入りな一枚になっている——という話はさておき、AFが苦手な場面があるのは事実だ。

それでも今のところ、IBISとEVFと重量のバランスを考えると、X-S10を手放す理由が見つからない。


スペックをまとめておく

項目 スペック
センサー APS-C 2610万画素
手ブレ補正 5軸・最大6.0段(IBIS)
EVF 0.39型・約236万ドット
液晶 3.0型バリアングル
重量 約465g(バッテリー・カード込み)
フィルムシミュレーション 18種類
動画 4K/30p、F-Log対応

※ 2026年現在、中古市場では概ね12〜15万円前後で流通していることが多い。


よく一緒に使っているレンズ

SAMYANG 12mm F2.0——超広角のマニュアルレンズ。開放の柔らかさと周辺光量落ちが、風景にもスナップにも効く。IBISとの組み合わせで、薄暗い場所でも手持ちで使える。

TTArtisan 25mm F2——標準よりやや広め、50mm換算で約37mm。散歩や旅のスナップに気持ちよく収まる画角だ。軽くて小さく、X-S10との組み合わせは特に持ち出しやすい。

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